花壇上文芸部なのだっ

花壇上文芸部の面々による熱き情熱をペン
(人によってはWord)に叩きつけた数々
作品群を紹介するのだ。
さぁ書け、今書け、ここで書くのだぁ!
感想やご意見は「感想という名のファンレター」に書き込むのだ。


守護天使「戦乙女」(3)
From: SAKI 05/11 22:53 ID:未発行
    3

「ロードオブデスだってっ!」

 一方、予定を繰り上げて現地であるニブルヘイムに入った守護天使の一行だったが、その理由となったクレユによる緊急要請の内容に愕然としていた。アガタの怒声が響き渡る。

「聞いてないよ、今回の任務はニブルヘルムから帰還する商隊の護衛だけじゃなかったのかい?」
「申し訳ありません。突然街に現れまして、ああいったロード(神)クラスの魔物が出現した場合は、近くに居る冒険者はその討伐に力を貸すことが義務付けられています。我々とて例外ではありません」

 額に冷や汗をかきながらも、今回の依頼主であるニブルヘルムの広報官は懇願した。

「こりゃ、やっかいなことになったねぇ。あたいらだけじゃ手におえる相手じゃないよ。他の連中はどうなってんだい?」
「同じようにたまたま街に来ていたパーティが分担して対応に当たってます。今のところ本格的な戦闘にはなっておりませんが、いずれは時間の問題かと……」

(まったく、こいつは追加料金でも請求しないと)

 心の中ではそう言いながらも、強大な敵の出現にひそかに背筋を流れる戦慄を、それを心地よいものに感じてしまうのが彼女の為人でもあった。もとより、粗暴といい無鉄砲な連中ばかりを束ねているのは彼女本人なのだ。

「仕方ないねぇ、みんなぁ、聞いてのとおりだ。今日の獲物は大物だよっ!」



「おっかしいなぁ……」
「どうかしました、ソーマ?」

 先行したギルドの面々を追いかけてニブルヘイムへの道を急ぐミサキとソーマであったが、違和感を感じたソーマはしばし足を止めた。

(魔物の数が少なすぎる。以前はもっとこう……)

 たしかに、道に不案内なミサキを連れて、多少なりとも厳しい道程を覚悟していた彼だが、拍子抜けするほど魔物と遭遇することは少なかった。また、あえて戦いを避けて道を急いできたということもあったのだが。

「急ごう……街で何かあったのかも知れない」


 街への入り口に至って、二人は明らかな異変の兆候に見(まみ)えることになった。

--ドゴーン!
--パパパパパッ!

「こ、こいつは……」
「闘い? こんなに離れているのに」

 昼なお暗い死者の街にあって、時折遠くから聞こえてくる爆音、さらには何かが崩れる音……。それらが、閃光によって映し出される街の建物の影の向こうにあった。

「ロードオブデス……間違いない。なんてこった」
「ロード……?」

 ミサキは初めて聞く名前に、いやその名を口にするのもおどろおどろしく、驚愕の表情のソーマに問い返した。

「ニブルヘルムを支配する最悪の魔物……神クラスの、いや死神っていった方がいいか、この場合」
「そんな魔物が……」

 驚きと恐怖、あきらかにそれはあった。ソーマだけでなくミサキの中にも。しかし、この時、ミサキはえも知れぬ興奮を感じていたことも確かだった。それは数瞬の後にソーマにも知れることになる。

--キシャーッ!

「あっ! 危ない!」

 突然の咆哮……黒い鎧とマント、大柄のその魔物は死者の国を徘徊すると呼ばれる妖精デュラハンであった。虚空から突如として現れたかと思えば、ミサキめがけて襲い掛かってきた。それに気づいてソーマが声を上げたが、同時にキリエエレインによる防御を試みようとした。

「聖ルピカの加護なる守護の……」(ま、間に合えっ!)

--ガキッ!

「えっ!」

 よもや間に合わないと思われたソーマの詠唱よりも早く、ミサキを包んだ淡桃色の光がデュラハンの攻撃をはじき返した。続く詠唱はあっという間に行われた。

「雷神トールの威光宜しくかの敵を蹴散らせ、ユピテルサンダー!」
「ファイヤーボルトっ!」

 たなびく雷光とともに弾き飛ばされた魔物は、続けざまの火矢によって焼け落ちた。

「ミサキ……?」

 淡桃色の光の中で見せるその横顔は、これまで気弱そうにしか見えなかったそれの、想像するどの表情とも異なっていた。背筋を伸ばし、凛とした顎のラインはあくまで冷ややかで、そして自分が今倒した魔物の方を見やる視線がゆっくりとソーマの方に代わる。

「ソーマ?」
「あ、いや何でもない……」

(なんて顔をするんだ、この娘)

「ところで、マスターたちはあの中に居るのかしら?」
「ああ、きっと居るさ。あのお祭り好きのおかしらが、放っておくはずがない」

 間違いない、という風にソーマは答えた。

「じゃ、行きましょう」
「えっ?」

(くすっ)

 まただ。強大な敵が居ることを確信し、なおその口元に彼女が見せたかすかな笑みを、ソーマは見逃さなかった。

(これが、本当にウィザードに成り立ての新人かよ)


by BVS